AIとパラダイムシフト





2023年8月5日





ChatGPTに代表される、大規模言語モデルと呼ばれる生成AI (人工知能)の登場は、世界を根本から変えつつあります。


私たちはもはやプログラミング言語でコードを書かなくても、自然言語でコンピューターを操作することが可能になりました。 


つまり、私たちが日常に喋っている言葉でプログラムができるようになったのです。

以前はテクノロジーに精通したプログラマーやエンジニアでない限り、コンピューター上のデータを自由に使いこなせませんでしたが、今では誰にでもChatGPTなどの言語モデルを使って、全人類の叡智に自由にアクセスすることができます。 


英語学習者にとってはかつてこれほど強力なツールは存在しなかったというぐらいに学習が効率化されました。 当教室でも2月からレッスン内で、まるで家庭教師に質問をしながら文法の解説を詳しくしてもらうような使い方や、人間のような人格を与えた上で音声会話をする方法など様々な活用方法を紹介させていただいています。



英語に限らず、私たちが興味がある分野で何かを学びたい時に、ChatGPTなどの言語モデルに無限に質問を繰り返して対話を続けることで、あらゆることを深掘りしてより高いレベルの理解に達し、新しい考えや奥行きのある知識を得ることが可能です。 人類が蓄積した全ての情報を、私たちが個人的に必要とする非常に使いやすい形のデータにカスタマイズ、パーソナライズさせて使いこなすことが可能なのです。 

そのような素晴らしい希望の反面、AIの脅威というものも同時に世間を騒がせるようになりました。 


1)教育の場ではユーザーが誤情報を鵜呑みにする怖れや、AIに丸投げで課題をさせることで総合的な能力や思考力が低下することが懸念される。


2)一般社会では、プライバシーの侵害やフェイクニュースの拡散など、悪用のリスクがある。また、AIが生成したアウトプットは、時として社会的バイアスを反映したり増幅したりする可能性があり、倫理的な懸念がある。


3)将来的に、A Iによって、大規模な自然災害レベル、または最悪の場合には人類破滅レベルの事故が起きる可能性があると警告する人々もいる。


1)に関しては、二極化されるのでないでしょうか。 ただ楽をしたいからAIに宿題を丸投げする、のような使い方をする人は確かにどんどん能力が低下するでしょう。 反対にもっと学びたいという意欲がある人は、考えなくなるどころかAIとの会話を重ねることでもっと深く考えるようになり思考力も高まるし、どんどん新しい知識を積み重ね、インスピレーションを得て、非常に知的でクリエイティブな探求や学習が可能になるでしょう。

2)社会的には規制が必要ですのでどのようにコントロールできるか議論されるべきです。

3)に関しては、まだそこまで脅威も迫っておらず真剣に議論がなされる段階までは来ていないだろうと見えるかもしれませんが、おそらくその時が来た頃は手遅れかもしれません。 だからこそ2014年前後からこの10年間で警告を発し続けている専門家や影響力を持つ著名人は少なくありませんが、たとえば20世紀最大の天才物理学者の故Stephen Hawking氏、哲学者のNick Bostrom氏、Elon Musk氏やBill Gates氏などがおり、人工知能の進化が人類の破滅に繋がるリスクに対して真剣に対策を取るべきだと考える人々は増え続ける一方です。 


世界一の富豪イーロンマスクは、Twitter社の買収でも話題になりましたが、NASAやロシアなどのどこの機関よりも多くのロケットを打ち上げ最先端の宇宙開発の研究を誇るSpaceXの創設者でCEOです。さらにはTeslaのCEO、ChatGPTを開発したOpenAIの共同設立者、脳に埋め込むブレイン・マシン・インターフェイスを開発するNeuralinkの共同設立者、などとして、その他にも幾つかの大規模な事業を扱っています。 中でも人類の生存に関わるような位置づけの仕事としては、航空宇宙企業のSpaceX社で、地球が気候変動など環境の悪化で将来的に人間にとって居住できなくなる未来が来た場合に備えて火星を植民地化するためのプロジェクトを扱っています。

もう一つが、今回のお話に直接関わる話ですが、Nueralink社の研究で、人間の脳に電極を埋め込むことにより脳内の神経情報を読み出し、近い将来に、脳損傷や脊髄損傷などで失われた能力を補う技術を目指しています。 しかし、Elon Muskにとってそれは通過点に過ぎず、彼の最終目標はそこではなく、将来おそらく人類滅亡レベルの脅威をもたらす可能性を持つ人工知能の進化に対して、人類が生き延びれる可能性を最も高める方法が、人間自身が生身の脳にNueralinkを埋め込みAIと同一の存在に融合してしまうことだと考えているのです。 人工知能との共生以外には安全は確保できないだろう、つまり私たち人類がAIと融合してしまえば勝手に暴走する相手というものが消滅するという考え方です。  

3年前の2020年にコロナパンデミックに翻弄される世界の中、ニューラリンク社が猿の脳に電極を装着してコンピュータへ信号を送る実験をしました。 何ヶ月かジョイスティックコントローラーを手で操作してテニスゲームをプレイするやり方を覚えさせた猿の脳にニューラリンクの電極を装着した後、ジョイスティックのケーブルをコンピューターから抜いてしまって、つまりジョイスティックがコンピュータに接続されていない状態にしましたが、猿は相変わらずジョイスティックで操作しているつもりで手に持ったコントローラを動かし続けて、画面上では今まで通りにテニスゲームを続けることができたのです。 Nueralinkデバイスが、脳内の神経情報を上手く読み出すことに成功していたのでした。 2020年の当時はこの話を科学や先端技術がお好きな生徒さんと良くレッスン内で議論しました。 同社はすぐに米国FDAに人体での臨床実験の許可を申請しました。 約3年経ち、今年2023年の5月25日に人体での臨床実験の許可がおりました。 

人類の生物学的な制約を超越しようとするTranshumanismと呼ばれる思想がありますが、私=人工知能というのは、Transhumanismの究極の最終形態の一つかもしれません。 人間とコンピューターの境界線が消滅したときにどのような景色が現れるとイーロンマスクは想像しているのでしょうか。

私は個人的には人間の脳とAIを融合する技術は本当に実現するかもしれないと十分にリアリティを感じています。 それでももしその時が来ても、私自身はもしかしたら「AIと融合した新しい人類」にはならない決断をするかもしれない、などと想像しています。 ChatGPTなどのAIの積極的な活用について書いた今回のブログと矛盾していますでしょうか。 みなさんだったらどうされるでしょうか。


この話にはもう一つキーワードのようなものがあります。Singularity (日本語ではシンギュラリティまたは技術的特異点)という仮説ですが、AGI (Artificial General Intelligence)と呼ばれる人工知能が、ある時点で自分自身をどんどん繰り返しアップデートし始めて、その度に毎回さらに知的な新しいバージョンがどんどん加速度的に現れるようになり、知の爆発のような状況を経てsuperintelligenceと呼ばれる人工知能が出現するとされ、それは全人類の知能を遥かに量的にも質的にも超えると言われています。 


2023年の8月現時点ではまだどのようなAIもAGIには達していませんが、それでも、ChatGPTなどで我々人間が自然言語でコンピューターとのコミュニケーションが驚くほどの高い次元で達成できるようになったということは、逆に言えば、コンピューター側から考えても、今までであれば人間がプログラムするコードや数値を通してのみでしか世界を理解することができませんでしたが、今ではコンピューターにとっても、より多角的で有機的な「人間の自然言語」による「人間の視点」という媒体を通して世界を捉えて認識する能力を手にしたと言えるわけです。 このことは人工知能が持つ知性そのものをさらに加速度的に大きく発展させるのではないでしょうか。(あくまでも私個人の考えです)


これにより、少なくとも「人間にとっての世界」に関しては人間に取って代わって扱えるようになる分野や範囲が飛躍的に拡張されたと見るべきでしょう。 ここで私は「コンピュータが理解する」という表現を使いましたが、現時点ではコンピュータには意識などありませんし、主観があるわけではないのですが、表面的にはまるで意識がある、意志があるような振る舞いをすることができます。  世界を「理解している」ように振る舞えるために、自動運転車のように、我々のあらゆる生活の場面に、大きいスケールでは、社会的なインフラにおいて、(発電所、電気、通信、水道、道路交通、輸送、病院、防衛、生産)AIが人間を助けるという形で深く関わることになるでしょう。 そこでAIの挙動にエラーが起きる場合には大規模で悲惨な事故が必ず起きるのではないかと予想されます。 


Singuralityの後ではコンピューターに意識が生まれると信じる科学者も中にはいるようです。 しかし意識が生まれても生まれなくても人類を滅ぼしてしまう可能性はおそらく全く変わらないと思います。 意図的かそうでないかは無関係です。 つまり、自動運転車がプログラムのバグなどで事故を起こすのに悪意があったり意識があったりする必要がないのと同じです。 AIが人類の滅亡に繋がってしまうような決断を何かの拍子に選択するということも、事故として起きうるわけです。 もちろん意識を持ったAIが意図的に人類を滅ぼすというシナリオを信じる専門家も中にはいるようですが、そこはどちらでも脅威に変わりはないのであまり重要ではないと思います。 


ちなみに、Singurality後の世界では、AIが人間にとっての破滅をもたらすと懸念するタイプの人々と、反対にAIが人間を助けてくれてほとんどの労働から解放される楽園になると信じる人々もいます。 Google で最も重要なコンピューター科学者のRay Kurzweilなどがその代表です。AIは人類をより本質的に幸せな未来に連れて行ってくれると主張しています。  退屈な仕事から解放された人類はより創造的でやりがいのあるアクティビティを楽しむことができるようになると信じているようです。  

人間の仕事がAIに置き換わるという方向性から議論されている概念の一つに「ベーシックインカム」(またはUBI)という概念がありますが、雇用状況や資産の有無に関係なく、全ての個人に対して政府が定期的に無条件で支給する給付金で、基本的な生活必需品を賄うことを目的としています。 A Iで失われることが危惧される数多くの職業や社会のあり方などが議論され始めて以降に、このベーシックインカムを、2年間などの一定期間実施する社会実験がすでにフィンランド、ドイツ、アメリカ、カナダ、スペイン、オランダなど各国で行われました。 このことからも人工知能による社会の変革の影響の大きさが感じられます。 


現在の人工知能の進化は世界を根本から変えるパラダイムシフトであり、ビジネスの場で、生活の場で、学びの場で、AIをパートナーとして深く対話を重ね、どんどん使いこなすべきだと思います。

ChatGPTは日本語が弱いために、日本語で日本に関する質問などをすると信じられないような誤情報を回答してしまうことも多いですが、気が遠くなるほど膨大な英語のデータベースで学習した言語モデルなだけあって、特に英語という言語の学習には圧倒的な威力を発揮します。 それ以外にも、世界的な常識、科学や哲学など各分野の定説や、それに基づく英語での論理的な対話などに非常に有効です。 必ず正解を出してくれる存在などではありませんが、どちらかというと世界一頭の良い学者の先生と友達付き合いさせてもらってるぐらいのスタンスの方が一番理に叶うと思います。 

(実際にはAI先生はどの人間の知識をも遥かに超えてますが) 

つまり人間相手であれば、どれだけハーバード大学の有名教授だって勘違いもあるしミスもあるわけですから、なんでも盲目的に真に受けるわけではなく、そういう人と好きなだけ無限に会話を深めることで新しい視点がどんどん開けていく感触こそがこのテクノロジーの凄さだと思います。


最後に。

頭に多くの知識を詰め込むことだけを目的とするような教育や学習は変わると思います。 それよりもAIとの対話を通じて「対人間」の、そして「対コンピューター」の、高いレベルのコミュニケーション能力を獲得すること 、AIとの深い対話から導かれる新しい視点を持って創造的なアイディアを作り出せる、問題解決ができる、新しい環境下でも生きていけるような人間になることに重きが置かれるのではないでしょうか。


いまの子供たちはAIと積極的に触れ合い、AIのことを、世界のことを、さらには私たち人間のことを深く知っていく中で、AIに置き換えられないような新しい価値をきっと自らの中に生み出していくことでしょう。






*ChatGPTに人間のような人格を持たせてリアルタイムの音声英会話ができる方法にご興味がある方はご連絡ください。 2023年4月に当教室の生徒さん向けにYouTubeに公開した解説動画をご案内します。














2023CEA