アヌシー

Annecy France



アヌシーは運河が流れる小さな町

写真はすべて講師撮影です










Annecyの町からルノーのレンタカーで南に向かう途中に通った地域が後で振り返ると一番美しかった。

こんな景色はこれからプロヴァンスについたら嫌という程あるのだろうと思い、わざわざ写真を撮らなかったのだが、そのエリアの紅葉の赤、緑、黄色、山の斜面の緑の木々のグラデーション、古い家々の溶け込み方。 この辺りの山岳地方はヨーロッパ全体でも一番美しかった光景だったと記憶に残った。

ガイドブックにも載らない脇道へわざと迷い込んでみて、思いがけず心に響く景色に出会えたり、自分のペースでいくらでも立ち止まれるレンタカーの旅は飛行機、電車やバスなどでは味わえない面白さがある。

Annecyからプロヴァンスへのドライブの途中で、フランスという国の歴史に脈々と受け継がれる美を感じさせられた体験がある。 何時間も田舎道を走る中で、長距離運転に疲れたためちょっと散歩でもして背筋を伸ばそうと、ふらりと立ち寄った小さな村とでも呼ぶべきような小さな地区なのだが、こんな場所でもすべての建物やすべての道が石畳や石造りの構造物で隅々まで美しい。

こんな僻地で、観光ガイドにも何にも紹介されないような、国の中でもとても目立たない田舎の隅っこを抜き打ち検査してみてもフランスは美しかったのだ。 こういうことを経験して思わされたのだが、ここ150年ぐらいで急激に西洋化した日本では、日本古来の美意識が一度ぷっつりと分断されてしまったのではないだろうか。 おそらく我々日本人もかつてはフランスなどにも負けない美しさを誇っていたはずで、その面影は京都などそのまま継承された文化に垣間見ることができる。 それに対して、西洋のものならなんでも良いといった「文明開化」によって多くの日本固有の文化の美しさと伝統は失われ、国民の美的感覚もぐちゃぐちゃに破壊されてしまったのかもしれない。 わずかに残された日本の伝統や文化と、アメリカやヨーロッパの文化の流入、それらがカオスのように混ざり合ったごちゃごちゃした状況が今の日本の日常的光景なのかもしれない。 だからこそ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドやアラスカ、ハワイなどのいずれも日本と同じぐらいの間で西洋化されたような国々ではそれほど日本との違いを感じはしないのだが、それに対して、古くからの伝統が何百年も何千年も続くヨーロッパの美というものは僕たち日本人には衝撃的な重さを持っていると思う。