パリ

Paris




本人が写っているもの以外の写真はすべて講師撮影です

オペラ座でのパリオペラ座バレエ団の公演は、舞台に作られた夜の森で、落ち葉が舞う中、色とりどりのダンサーたちが美しく、素晴らしいクラシックのシンフォニーと相まって夢のようだった。 間違いなく人生でもっとも感動したパフォーマンスの一つだった。

パリはやっぱり美しい街だった。 シャルルドゴール空港から特急電車に乗り中心地に近づくと一旦地下に潜ってしまったが、ホテルを予約した6区の地下鉄の駅から階段を経て地上に出た瞬間にパリの華やかさに思わず頬が緩んでしまった。 他のどの都市とも違う洗練された美しさは、なるほどね、と思わされる。

いきなり楽しい気分にさせられるのだ。 このホテルからはルーブル美術館をはじめ、マレ地区などにも歩いていけた。

この街ではあらゆるアートがどこにでも溢れているのだが、ジャズ文化はニューヨークと並んで世界最大レベルらしい。 パリに滞在した一週間ぐらいは毎晩1つか2つの店に何時間も入り浸り、最高レベルのジャズパフォーマンスに酔いしれた。

セーヌ川南岸には歴史的なレストランも多いが、その一つにピカソ、セザンヌ、ヘミングウェイ、ダリ、モディリアーニ、サルトルといった芸術家や哲学者たちが常連として愛し、今でも各国の有名人たちに贔屓にされている店がある。 この店で一流のフランス料理というものを味わってみたのも良い経験だった。でも本当に特別だったのは、たまたまグランドピアノの真横の席に案内された僕は、店の専属のピアニストの素晴らしい演奏の合間に、彼と会話をする機会に恵まれて、流れで「僕は独学でピアノを少しだけ弾くのですが、あなたのように素晴らしい演奏ができるようになりたいと夢見ています」と言ったら、「じゃあちょっと弾いて良いよ」と言われ、もちろん「いえ、とんでもないです。僕は全く下手くそで何も弾けないですから」と断ったのだが、彼は気にしないで「いいんだよ、音を出して楽しんでごらん」とニコニコしているので、気がついたらピアノの前に僕は座っていて2~3分ぐらいだが即興で音を出させてもらった。 僕の演奏中に彼は僕の横に立って肩に手をおいてくれたりして勇気付けられたし、終わった後も彼は「どうだい?楽しかっただろ?」と言ってくれた。 店は多くの客で空席がないぐらいだったのに、客たちが嫌な顔をしていたような雰囲気はなかったと思う。 ピアノの横を通りかかるウェーターたちは僕に微笑んでくれたりしていた。 僕にとって、この体験は特別なものだった。 すべてのテーブルにヘミングウェイとかピカソとか、そのテーブルにいつも座っていた人々の名前のゴールドのプレートが張ってあるような店で(僕のテーブルの名前は知らない音楽家だったが)僕も少しだけ音を出したのだ。 しばらく後で、店の前の通りに秋の紅葉した葉っぱが積もる路面に設置された木製のベンチでタバコを吸っていた彼の休憩時間にもう少し会話をしたのだが、彼自身も20歳ぐらいの頃に独学でピアノを始めてジャズを学んだのだそうだ。50年あまりピアノに人生を捧げてきて今はこの店で専属で演奏をしている。 実は、彼は数ヶ月前から重い病気で余命わずかと医者に宣告されていたが、二ヶ月ほど前に「奇跡的だが回復してきている。まだ生きられる」と言われたということだった。 そういう背景があったのか。 だからこそ彼の演奏は特別に美しかったのだと気づいた。 そして今の彼はすべてのものが美しく見えるのだそうだ。 生きていることが奇跡に感じると言う。 そんな彼に導かれてピアノを弾かせてもらった。 かつてマイルスデイヴィスと共演していたバリーハリスというジャズピアニストの通訳を秋吉台国際芸術村でしたことがあるが、ちょっとした流れで彼の前で僕自身が2分ぐらい即興演奏をさせてもらったことがあった。 緊張で舞い上がりすぎて何のアドバイスをもらったか覚えていないぐらいだが音楽体験的に特別な経験だった。

今の僕は、ピアノを弾くと他人に堂々と言うことも勇気が必要なぐらいに下手くそだが、こういう体験はモチベーションの面でものすごくプラスになっているし、パリのあの場所で、歴史的な芸術家たちが過ごした同じ空間で何かを共有できたいうことがとても嬉しかった。

ルーブル美術館を訪ねるためだけにパリに来る人もいるというが、わかる気がした

ストリートパフォーマンスのクオリティもとても高い街だ