2021年3月31日
ビーチは動きまわれ!
サーフィンを始めた頃に先輩にいつもそう言われていた。 お前は頭がかたすぎて、同じポイントに居座りすぎると怒られた。
ポイントブレイクのリーフだったら水中の岩場の形に影響されて波が崩れるのでテイクオフするべき場所は基本的にいつも一定だ。 それに対して一般的な海岸では水中の砂がどんな状態にあるのかは、海がしけるたびに様子は変わる。 ある日はビーチの右奥アウトで最高のライトの波が崩れているとしても、次の週にはビーチの左端のインサイド気味にコンパクトなレフトの波が現れるかもしれない。 それどころか、同じ日の同じビーチでさえも、さっきまでど真ん中に水抜けの最高なチューブの波が巻いていたと思ったら、潮が満ちてくるにつれて、遥か沖の方に形の良い最高にファンウェーブな波が崩れ始めたりする。 うねりの向き、風向き、潮の満ち引きなどの変化、それらの要素との水中の砂の地形との相性。 そういう要因で波の良し悪しはどんどん目まぐるしく変わるのだ。 上手になるサーファーの資質の一つが、こういう変化に敏感に移動しまくれること。 僕にはそれが欠けている。 つい、自分が気に入ったブレイクを見つけると、いつまでもそこで同じセットが入らないか待ち続けてしまう。 周りの仲間はどんどん新しいポジションにパドルして行ってしまうのだが、僕だけは同じ場所でずっと待ち続けている。 さっきまでみんなが最高のライディングを繰り出して盛り上がっていたポイントには僕だけが残り、たまに入る波に僕がテイクオフしても短いライディングですぐにプルアウトして終わり。 その横50メートルずれたところに新しくブレイクし始めたポイントから移動して行った仲間が歓声を上げながらどんどん良い波に乗りまくる。 それを見ながら別に俺は気にしてないよ、みたいなそぶりで僕はマイペースを貫く。
完全に一本も波が入らず、ピタッと止まる場合はさすがの僕でも気づいて移動するが、通常は完全にダメになるというよりは良い波が入る間隔がメチャクチャ長くなったり、または波質が徐々に悪くなったり、結構わかりにくいのだ。 それぐらい、100本波が来れば100種類の波質で、良いものも悪いものも混ざってくる。 その100本中に30本良い波があるなら最高で、みんながそのブレイクを狙うのだが、僕の場合は100本中、5本でも良い波がくるとその場を離れられなくなってしまう。 僕のこういうセンスのなさはずっと変わらない。
ふと思ったが、人生も似たところがあるのかもしれない。 ただし、人生の場合はそこが移動するべき場所なのか、もっと待ち続けるべき場所なのかの判断はサーフィン以上に難しいかもしれないが...

2021年2月28日
ワーキングホリデー
18歳以上30歳以下の人に、一年間程度(延長あり)働いたり旅行したりしながら滞在することができるビザが発給される制度。
この制度を使って各国でバイトをして「サーフィンホリデー」をしながら世界中を旅して周る。高校や大学卒業時に進路を悩んでいる人などには夢のような可能性がここに広がっているような気がする。
僕自身もオーストラリアとニュージーランドの二カ国でワーキングホリデー(サーフィンホリデー)を二年間したのだけれど、(その後のハワイオアフ島は観光ビザで6ヶ月住んだ)18歳から30歳まで12年間ぐらい、遊んでばかりじゃなくちゃんとバイトをしながら過ごせば、ぶっ通しで連続12カ国に滞在するパターンもありだ!
自由な発想で文化や語学を吸収しながら十二年間を過ごせば人間的にも大きく成長できるかもしれない。
提携国は以下の26ヵ国。(2021年3月現在)
英語圏
- オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス
アジア
ヨーロッパ
- ドイツ、フランス、アイルランド、デンマーク、ノルウェー、スロバキア、ポーランド、ポルトガル、オーストリア、ハンガリー、スペイン、チェコ、アイスランド、リトアニア、スウェーデン
- エストニア、オランダ
南米

2021年1月31日
サーフィンに行きたくない
「明日はxxxxビッグウェーブポイントに一年ぶりのデカい波が来そうだよ」とYD君から連絡が入った時、僕は緊張で胃が締め付けられるような感覚になった。
最近の僕は残念ながらフィジカル的にもメンタル的にもベストのコンディションからはほど遠く、ビッグウェーブでサーフィンしたら死ぬ思いをする(大袈裟じゃなく)自信しか無かったからだ。
一度は断ったのだが、YD君にさらに強く誘われて「考えておくよ」と言ってごまかしたが、内心は行かないつもりでいた。 それでも一日中ちょくちょく思い出してはどんよりとしていて、夜眠る時までずっと暗い重い恐怖感の重圧に苦しめられていた。
無謀なのと勇敢なのはぜんぜん違うぞ、自信が無いのに無理矢理自分を騙して海に挑んでも大怪我したり死んだりするだけだ。 20歳ぐらいのイケイケなバカじゃあるまいし、経験豊富な大人のサーファーとしてしっかりと判断して今回はやめておこう。
ベッドの中で最終的にこう決断した途端に心の中にすうっと光がさしたように楽になり、
脳内から幸せ物質が放出されたのを感じた。
は〜!安全がいちばんだなあ。とあたたかい安心感に包まれて眠りについた。
次の日。
YDくんへのラインでは「考えておく」とは言いながらも、本音の「行きたくない気持ち」はメッセージの文面にわかりやすく匂わせておいたので、察してくれるだろう、そっとして置いてくれるだろう、と思っていたのだが、YD君から波情報が入った。 朝からずっとチェックしていたのだがウネリの向きも良くないしサイズもそこまで上がらなかったので今日はできないかもしれないとのこと。
何とも言えない安堵感に包まれながら、
「残念だね、でもなんかホッとした俺がいる」と伝えると「マジウケル」と笑われてしまった。自分でもビビり方が情けないのがまじウケると思ったけれどでもやっぱり嬉しかった。
ああ!フラット最高!(*フラット=波が無い状態)
ああ!安全第一!
なのに...
午後2時過ぎ
YD君からふたたび連絡
「ウネリの向きも変わってサイズが上がってきたし潮回りが良くなってブレイクし始めた。やろうや!」
とのこと。
ち〜ん...死んだな、と思いながら準備。
まあボード&ウエットだけ車に積んで現場に行って波チェックしたフリをしてからUターンして帰って来ても良い。そういう逃げ道も恥ずかしがっちゃダメだ、みたいなことを心の中でぶつぶつ呟きながら。
ポイントに着くとYD君のリポート通りそこまで大きくは無く、このポイントでギリギリできるサイズという感じ。 とはいえここはビッグウェーブポイントだ。 不調の僕なら一本でボコボコにされるのは目に見えている。
でもセットが入り、波が崩れ、先に海に入っていたYD君やITO君が良いライディングをするのを見ているとやっぱり僕もサーファーだな、波に乗りたい欲望がムクムクと湧き上がって来てちょうど恐怖と50/50ぐらいになった。
モゾモゾとしながらもフルスーツのウエットに着替え終わると、なんかのスイッチが入るのはいつもながら不思議なものだ。 ブーツも履くとさっきよりも戦えるような気分になる。
ガンダムのモビルスーツみたいだな。
ボードに塗るワックスの真冬らしいゴリゴリいう音と、はるか遠くのラインナップの波のゴオ〜と崩れる重低音が重なる。 ちょうど沖を見ていたらパドルアウトしてる途中のYD君の沖にヤバそうなセットが来た。 数本の波の入った位置に対して彼がいたポジションはインサイドすぎて振り返ってから十分にパドルをする距離が取れない位置だ。 普通だったらあきらめて波をやり過ごすべきだった。 目の前で崖のように牙を剥く大波が迫る。 彼は岸の方に振り返ると数回だけパドルをしてテイクオフを試みた。 波が急激に切り立ち過ぎて、彼の身体が伸びてワイプアウトしてぐちゃぐちゃに揉まれている...
恐怖で自分の胸の動悸が聞こえるようだった。 この時点でやっぱり帰るという絵を想像してみたが、海の二人は僕が一旦着替え終わったのを見ていたはずだ。 ウエットに着替えたあとで逃げ帰ったとなれば伝説に残るし、もうここまで来たら仕方ない。 ラウンドピンテールのセミガン6’11”を腕に抱えて小走りで海に向かった。 車から海の岩場までの3分ぐらいのランニングは長いのか短いのかわからない時間だった。 身体は十分に暖まった。 少しストレッチをして覚悟を決めて岩から海に飛び込みラインナップへとパドルした。
海全体が大きくうねる巨大なエネルギーに翻弄されながら漕ぎ続けると、遥か遠くでYD君とITO君がセットの波をロングライドしているのが見えた。
そうこうしてるうちに二人といっしょにセットを待っている僕がいた。
そこからは、セットが入るたびに恐怖と戦いながら波を追いかけたり逃げ回ったり、一本も乗れないままで時間は過ぎていった。 自分の位置より沖にデカいセットが来ると一瞬ボードの上に立ち上がって飛び込んで水中深くに潜って避難するというのは何回も繰り返していた。 スキルが足りない僕の場合はこのサイズの波にドルフィンなんて効かないのでこれしかない。 このレベルのパワーの波でドルフィン失敗すると水中でとんでもない体勢でボードといっしょに叩きつけられたり大怪我につながることがある。
予想してはいたが、やはりこのラウンド2時間半ぐらいでたったの1本しか乗れなかった。 (正確には一本も乗れる自信が無かった)
その一本だが、テイクオフはギリギリでメイクできたのはラッキー。 ボトムに降りる途中ですでにフェイスの面の硬さと凶暴なパワーが両足から全身に伝わってぐらぐらに揺さぶられアドレナリンで脳が痺れた。 すごい刺激だ。 気持ち良い半分怖い半分。
ボトムターンをするスキルも余裕も無くてセクションを抜けられず、真っ直ぐ降りた時点で分厚いリップが落ちてきてゴジラに軽自動車が吹き飛ばされるみたいにワイプアウトした。 ぐるぐる巻きでボードにもぶつかりかなり苦しかったけれど、無事に浮上。 ふらふらしながら数分かけてラインナップに戻っていくとYD君とITO君が笑顔で迎えてくれた。 デカい声で「最高!」と叫びながらその瞬間を噛み締めた。 ああ!やっぱり気持ち良い! とはいえこのあとは1時間ぐらい一本も乗れず、日が暮れる前にYD君のボードが真っ二つに折れてしまったので、僕もITO君もいっしょに上がった。 この時YD君はボードが折れた後、岸に戻るのに川のような流れにつかまってかなりてこずったらしい。 いざと言う時にどのルートで岸に上がるべきか、流れが早いときには、折れたボードに乗ってパドルするのは進みにくいので、リーシュでボードを引きずってクロールするべきか、それともボードは捨ててクロールするべきか、
それとも体力温存で平泳ぎをしながら流から脱出するように横切るべきか。 最終的にテトラポットが待ち構えている場所に捕まってしまえば波にたたきつけられて死んでしまうかもしれない。 かといって岩場の真ん中から上るのも同じ位危ないだろう。 どうやってサバイバルするべきかそういうイメトレを海から上がった3人は色々と話し合った。
今日のコンディションはこのポイントのビックウェーブとしては一番小さい部類に入るとはいえ、それでもやはり安全対策は真剣に取り組まないといけない。 やはりたった1人でこのポイントに入る事は避けるべきだと思う。 信頼できる仲間と助け合えることは絶対必須だと思う。
怖い思いをしながらギリギリの精神状態で本当にギリギリ1本だけ乗ることができたこの日のサーフィンだったが、こうやって無事に戻って来れた今振り返ると、入って本当に良かったと思う。 あの1本がどれだけ大きな興奮と喜びをくれたか。 サーフィンってすごいなぁと心から思う。
このポイントの僕にとってのアルアルは、波がなくてサーフィンできないときにはあーあのポイントでデカい波でやりたいなぁ!とか言うくせに実際にビッグウェーブが来たときには当日になると気持ち半分は行きたくなくなるのだ。
感動と恐怖はいつも表裏一体だ。

この日たった一本乗れた波。 当教室講師キャプテンメモ2021年1月
この直後には、右上頭上から落ちてきている分厚いリップに叩きのめされて、めちゃくちゃにされた。

ITO君2021年1月

これだけでこぼこのフェイスは面が硬くて簡単に弾き飛ばされる。YD君2021年1月

YD君2021年1月