2020年12月31日
すべてが自分の思い通りの世界
眠っているときに僕が見る波乗りの夢は、難しい技の練習をしているシーンが一番多い。
いつでもシナリオにそう書いているかのように決まって僕の挑戦する大技はきれいに成功する。
そして毎回毎回バカみたいに、「今度こそ夢じゃない、本当にメイクできた」と心から信じて心底大喜びをする。
そのリアルすぎる遠心力、風圧、水の感触、スピード感、足の裏のサーフボードの感触とか、全てが現実以外の何物でもないと思わせる。
とはいえ、僕が夢の世界で成功する技はやっぱり現実世界で実際に何百回も練習しているものだけ。 ジョンジョンフローレンスやフィリペトレドとかがやるようなサーフィンは夢の世界でさえも一度も僕がやっているシーンなど見たことがない。 体重移動とか、波とのタイミングとか、ボードと身体の動きなど、技のムーヴのイメージができないから。
サーフィンに限らず僕は夢の中でこれは夢だと気づいた経験はゼロだ。
そういうのは明晰夢というらしいが、夢だと気づけたなら、その時点から先の物語をなんでも自分の思い通りにコントロールできるらしい。
矛盾しているようだが、もしサーフィンがなんでも自分の思い通りにできるものだとしたら僕はきっと3ヶ月ぐらいでサーフィンをやめてしまうと思う。
僕だけじゃなくて、世界中のほとんどのサーファーがサーフィンをやめてしまうと思う。 ケリーも多分すぐにサーフィンをやめてゴルフでもやってるはずだ。
サーフィンも人生も同じだと思う。
思い通りになることなんてゼロだからこそいつまでも夢中でいられる。

2020年11月30日
水中では・・・
大きな波にもまれると水中で洗濯機みたいになってなかなか海面に上がってこれない時がある。 トッププロのビッグウェイバー達は、生死を分けることもあるこの瞬間にできるだけ冷静でいるためのトレーニ ングとして、息を止めて大きな岩を抱えて海中を歩いたりすることもある。
僕は陸上でリラックスして身体を全く動かさずに息を止めてみたら ( そんなに何度も挑戦したことはないが ) 3分30秒ぐらいまで我慢できた。 ところが波にもまれている時は、意識的にできるだけもがかないように、自然に海面に浮かび上がるまでリラックスして波に任せるというセオリー通りに振る舞っているつもりでも、10秒もしないうちに苦しさが限界に近くなるのを感じてしまう。 幸いというべきかわからないけれど、僕たち山口県長門市のエリアだと波にもまれても、水中に引きずられるのは最長でも多分10秒を超えるぐらいじゃないかと思う。 ここら辺のビーチでの、平均的な波のサーフィンだ と3~4秒ぐらいまでだろうか。
僕にとっては陸上で210秒ぐらい息を止められるのが、海中で引きずられると、10秒ちょっとで苦しいのだ。 決定的に違うのは、転倒して水中に落ちる瞬間まで激しい運動をしていて酸素を既に消費しているということ。
さらに、陸上ではいつどの瞬間でも自分自身が「もう嫌だ」と思えばその場で呼吸ができるという安心感があるが、水中だとどれだけこの苦しさが続くのかわからずに恐怖が沸き起こる。 苦しさは生存本能のメカニズムなのだろう。 実際の経験はないけれど、僕は20秒ぐらいまでならすごいパニックになりつつもギリギリ意識を失わずに海面に上がれるんじゃないかと推測する。 単純計算すると陸上の数値の10分の1。
先日、ナザレ(マウイ島のジョーズなどと並んで世界有数のポルトガルのビッグウェーブポイント)のビッグウェーブサーフィンの動画を見ていたら、巨大な波でワイプアウトして35秒近く水中で引きずられた屈強なエキスパートサーファーが、ジェットスキーの仲間のレスキューにギリギリ救出されて、安全なエリアまで運んでもらった後で感謝の言葉を伝えた後で、極限まで興奮してアドレナリンに満ちたまま、i got so fuckin' pounded! 「くっそメチャクチャにされたぞ!」 とか笑いながら絶叫している動画を観た。 ただし、このレベルの波は、雪山の雪崩に突き飛ばされるようなもので、身体をメチャクチャに圧迫されたり打撃されたり、折り曲げられたり、リラックスとかできるわけもなく、酸素もどんどん消費するはずなので、僕なら10秒でも溺れるかもしれない。 こんな波で35秒も耐えられるサーファーは、陸上では例えば10倍だとすれば、間違いなく350秒以上とかは息を止められるはずだと思う。
そういう世界トップレベルのサーファー達でさえ悲劇が起きることもあるのだが、我々人間は自分たちの安全な領域というものに満足できない生き物なのかもしれない。
多くのサーファーは、自分自身の限界に挑みたいという、危険で馬鹿げていて魅力的な呪いに一生涯取り憑かれている。

2020年10月31日
スピード
サーフィン中のスピードというのは計測すればそんなに速そうな数値ではない。
それなのに体感速度としては、バイクで高速走行するような疾走感を味わうことがある。
みんなそれぞれかもしれないが、僕が速さを感じるのは次の条件のどれか、またはすべてが揃う時。
ギリギリのライン取りの調整をしながら抜けれるかどうかで危険を感じるようなセクション。 チューブを巻く波。 どれだけベストのパドルをしていても波が切り立って掘れすぎてテイクオフがメイクできるか自信がないビッグウェーブのドロップ。
あとは、スモールウェーブだとしても、ブレイクがはやくて水抜けが最高で、よく掘れる波をアップスで自分の脚力をマックスに使ってカッ飛ぶ時の疾走感が大好きだ。
これはどんなに小さい膝波でもその感覚が味わえるから不思議だ。
サーフィンの何が好きなのかと聞かれたらみんな千差万別な回答があるとは思うけれど、僕にとっては「速さ」の中で集中力がどんどん高まる瞬間は何ものにも代え難い。
他では味わえないスピードだ。

2020年9月30日
The Search
僕自身ももちろん無いのだが、一般のサーファーにとって新しいサーフポイントを開拓するという経験は一生涯のうちに一度もない人がほとんどだろうと思う。
誰も入ったことのないポイントに初めて入るというのは勇気がいることだと思う。 普通はそのポイントを知り尽くした先輩たちから教わる知識に身を守られている。
でもそういう知識無しだと、頭を打つような隠れ岩だとか危険なカレントだとかそういうことに自分自身が初めて対応しなければならない。
昔、シングルフィンだったりでサーフボードの性能もぜんぜん良く無かった頃にはサーフィン中に波にやられるリスクはかなり高かったはずだ。 今の僕たちが最先端のボードでサーフィンしてもめちゃくちゃにやられるわけだから。 リーシュだっていい加減なものしか無かった時代に、ヘビーなビッグウェーブポイントを開拓していった先人達は本当に偉大だと思う。
誰よりもハングリーな***君が数年前に新しいポイントを発見したことがある。 ***君に連れられて行ったそのポイントはそれほど大きな波が立つポイントではなかったけれど、クセになる面白さのあるリーフブレイクだった。 辺鄙な田んぼを抜けて、ロープを伝いながら急な崖を降りてたどり着くそのポイントに初めて入ったときの興奮は忘れられない。 長い間、このエリアでサーフィンしてきたけど、まだ知られていないポイントがこんな場所に隠れていたのか、という驚き。 そこの岩棚独特の崩れ方をする波に何度も何度もパドルアウトして、新しいページをめくるようにサーフィンし続けて何時間も大騒ぎだった。 本当は、密かに人知れずパーフェクトなブレイクをしている夢のようなポイントが日本のどこかにまだいくつも残されているのかもしれない。
何日間も何週間もビッグなスウェルを捨ててでも新しいポイント探しをするハンターのみがもらえるご褒美に思いを馳せると興奮してしまう。

サーファー 当教室講師キャプテンメモ
2020年8月31日
ナイトサーフィン
夜間にサーフィンをすると全く違う世界が味わえる
満月の夜はとても明るくて波も捕まえやすいけど、全く月が出ていない暗い夜でもサーフィンはできる
セットが入るのを遠くから見つけることはできないので、自分のほんの数メートル沖に波がブレイクしかけているのを音やしぶきなどの気配やかすかに見える映像で判断して、プッシュのさし乗りでテイクオフする。
乗っている波の足元が暗くても、足の裏に伝わる波からの反動の圧力の加減で、今は波のどの辺りを走っているのかを推測できるので、ほとんど見えなくても横に走ってアップスしたりターンもカットバックもできる。
先日も、完全に暗くなったあとのビーチでサーフィンしていたら、仕事が終わった後に来たという看護師のガールサーファーが海に入ってきて、ずっと長い間サーフィンしていた。 僕が上がった後は月も高く登って明るくなってきたが、海に入っているのは彼女だけだった。 彼女は時々砂浜に上がって座って休憩してからまた暗い海に一人で入っていって、というのを何度も繰り返してずっと波乗りを続けていた。 上手くなりたいと言っていた。
今まで印象に残っている夜はいくつもあるけれど、
思い出に残っている一つはハワイに住んでいた時のナイトサーフィン。
冬のノースショアのシーズン中はもちろん一度も夜のサーフィンはしていない。
日中ハードなサーフィンですべての体力も精神力も使い果たして、家まで車を運転するのも居眠りしそうだったぐらいで、夜早くすぐに寝ていた。 それに夜の海に入ろうかと思えるようなイージーなコンディションの日も無かった。
夏になってノースショアに波がなくなった頃、毎日アラモアナボウルズでサーフィンしていた。 ある夜に、明るい月の出たワイキキの沖の方のポイントで数人の仲間と夜の10時ぐらいからセッションを楽しんだ。
暖かい水にサーフトランクスだけで開放的な感覚の中、進行方向とか波のフェイスとかを見ているというよりは、空を見上げて星を眺めたり、月を眺めたりしながら走っていった。 テイクオフした後ずっと空を見上げていても横に走るぐらいは問題ない。 遠くに煌く海岸沿いのホテルやレストランの無数の街の明かりはシュールで、ヤシの木を抜けて吹いてくる暖かいオフショアの風と、胸ぐらいのサイズのパーフェクトなマシンウェーブは、現実のものとは思えないような夢見心地の世界を味合わせてくれた。 そこに本当にいるのを見た訳じゃないんだけれど、数頭のフレンドリーなイルカと波を共有しているような不思議な感覚がずっとあった。
2時間ぐらいのセッションを終えて砂浜に帰ってきた時は、仲間の誰もが恍惚感で笑顔が絶えない状態だった。
サーフィンの何にそんなに夢中になるの
みんなはこの手の質問にどう答えるんだろう
僕の場合は一言で言うと中毒なんだけど
どんな感じなのかって言葉で説明すると
ずっと波に乗っていないとだんだん精神状態が不安定になる
幼稚園児にとっての滑り台みたいに見えるかもしれないけれど
あの体験は他のどんなこととも違う
魔法の絨毯で水の上を滑空する感覚
波と呼ばれる水の塊が生き物みたいに動く
その未知の物体が僕らの身体を運んでくれる
重力がどうなってるのか訳のわからない状態
日常とはかけ離れた世界
サーフボードを通して足から伝わってくる海の鼓動
刺激や喜びが充電されるような
癒されるような
麻酔をかけられて頭がぼんやりフワフワしてくるような
逆に究極にシャキッとなるような
でも海に入ってる時の僕らのボキャブラリーはかなりとぼしい
「あ〜最高!気持ち良い〜!」
ってエンドレスで繰り返してる
バカみたいに

撮影TERUO 2019年8月長門市
この顔は!?
サーフィンのイメトレをしてる時に、ふと鏡に映る自分の表情で気づくことがある。
この顔は日常生活にはないなあ、と。
相手のパンチに一瞬のカウンターを合わせるボクサーみたいに、
波の崩れ方をみながら、コンマ何秒的に狙っている瞬間の顔だ。
マックスの集中。この感覚もサーフィンが大好きな理由のひとつだ。
仲間もみんなそうだけど、あの集中をしてる時はいつもの顔と全然違う。
顔のいちばん変わるのはAJ君。最高な波でゾーンに入ると戦闘モードのアンディアイアンズみたいな顔になって、いつもの優しそうな表情とのギャップがカッコ良い。 それに初めて気づいた日はライトのリーフが最高な日でみんなでイジッた笑。
ところで、春の大雨で山から流れた大量の泥で二位ノ浜の駐車場が完全に埋まっていましたが、ローカルサーファーの有志の方々が、ダンプや一輪車などの道具を借りてきて、きれいに泥を除去して清掃をされたそうです。

サーファーは講師キャプテンメモ 2020年2月