ハンググライディング


高度1000m上空を飛ぶ講師Memo












なぜか子供の頃から空を飛ぶことに強烈な憧れがあった。

何日に一度かのわりあいで空を飛ぶ夢を見た。 どれも最高に楽しくて、とてもリアルな感覚だったので、空を飛ぶ夢が楽しみで仕方なかった。 そして、必ず空に浮いた時に心の中で思うのが「やった!今回こそは本当に飛べた!夢じゃない!」ということだ。 あるときはふわふわと学校の教室や廊下を浮遊した。 ある時は屋根から屋根をゆっくりと跳躍した。 だんだん高さも増してビルの屋上から屋上へ。  次第に浮遊や跳躍というよりも、飛行という形態で空へ飛び立つことが多くなった。 ある時は両手を広げ高速で飛行して、ジェット機ぐらいの飛ぶ高度でウルトラマン(同じ身長だった!)と出会い「今からどこに行くの?」などという会話をしたこともある。  何故飛べるのかは、いろいろなパターンがある。 ジャンプをした拍子になんだか身体が軽くなったからというもの。 坂を思い切り走り降りている最中にジャンプした勢いでそのまま空中に浮いて行くというもの。

子供のころから大人になるまで一貫して無数に見ているパターンの夢は、風が強く吹いてきて、両手を広げると浮力を感じて空に浮き上がるというもの。 こういった飛行夢はいつでも風圧もスピード感もとてもリアルだ。


印象深い夢にこんなのがある。


どこかの、みわたすかぎり地平線しかない大草原に僕は一人で立っている。 

風が強くなってきた。 

両腕をいっぱいに広げてみると風の抵抗が強くてうしろに吹き飛ばされそうになる。 

この腕の角度を少し調整すれば空中に浮かぶだろうと思う。 

両腕を翼のようにひろげてゆっくり角度をつけ、風が地面に向かって流れるようにしてやると・・・   浮いた!! 

最初は2メートルぐらい。 

そして10メートル・・・  50、 100、 一気に 高度を上げて1000、 3000メートル。   (夢の中ではいつものことだけど、今回こそついに、ついに本当に現実に飛べたんだ!! って思ってしまう。) 

そのうち大草原は小さくなり、自分の飛び立った大陸がオーストラリアの形になってきて、さらに高度を上げると地球の丸さを視野全体にとらえる高度まであがった。 

壮大な景色。 言葉にならない感動だ!! 

意識の中で、ああもう少しで大気圏外にでるんだ!!  宇宙だ!!  と思ったあたりから少しずつ高度が落ち始めた。  どんどん高度が落ちていく、不安になっていく、オーストラリア大陸がみえる。  雲を突き抜ける。  大草原の上空に戻る。 

一分もしないうちに、どうやって無事に着陸するのかを考える高度だった。 

高度は急激に落ちているが、落下してるわけじゃなく、一応、滑空しているので、そのままうまく角度をとってグライディングして腹這いで草原にボディランディング(胴体着陸)をした。    ケガはなかった!!

こんな夢を幼少の頃から無数に見てきた僕は少しずつ空への憧れを強めていった。





ある時、海で出会ったハンググライダーのフライヤーの人を僕は親友に紹介した。 するとその友達はどっぷりハンググライディングの世界にはまっていき、いつの間にか自由に大空を駆けるフライヤーになってしまった。



数年後、彼の後を追うように僕もトレーニングを始めた。 最初は地味な訓練ばかりで、グランド練習というのだが、重たい機体を背負ってバランスをとりながらひたすら地面を走りまくるという辛い練習が続いた。

そのうち、バランスのコントロールができるようになった頃、海岸の砂浜で緩やかな斜面になっているところを駆け下りて、2mぐらいの低空飛行をしたのち、左右にターンをして着地をする練習を繰り返した。 この低空飛行でさえ、始めて身体が空中に浮いた時の気分の高揚は忘れられない。 理論的なことも一から教えてくださって、教える方もとても体力を使うトレーニングに辛抱強く付き合ってくださった先輩フライヤーのKさん、本当にありがとうございました。 飛びっぷりもその度胸もいつもカッコよくて尊敬しています。 





そして、ある晴れた日に、海抜700メートルの山の上で、崖の下に向かって斜めに突き出しているハンググライダー専用の木製ランチャー台の上に僕は立っていた。


遥か下の方に広がるミニュアチュアの木々たちを眺めながら、

ゆるやかに、しかしときおり強く、吹き上げてくる向かい風の様子を注意深く見守りながら、僕は飛び立つタイミングを待っていた。


このスポーツを始めるまで、これぐらい風の動きを意識したことはなかった。 テイクオフをする時には安定した向かい風を受けて飛び立つのが基本だ。 乱れた追い風などでは墜落して大事故につながる。 鳥たちがしているように、風を読み、風を視覚化して自由に操る能力を少しでも盗まなければならない。


 僕は、自分が飛び立つタイミングを計るために、山の斜面の木々たちの葉っぱの揺れ方で風の動きを読もうとしていた。 風の吹き方にも一定のリズムがあって、30秒ぐらい強く吹き続けたと思うと、また30秒ぐらい静かになる。   師匠のKさんは僕の機体の少し後ろに立ってくれている。 「 今回は横で見守るだけでもう口出しはしないからな、自分のタイミングで飛び立て」と言われた。  前夜とはうって変わって今の僕は不思議と恐怖感からくる緊張はしていない。 心地よい高揚感と集中から来る良い意味の緊張感のバランスがあった。 できるだけの準備をした。 何十時間もの辛い練習をした。 飛べる自信はある。


数分間か数十分かわからないけれど、僕はひたすら山の緑とのどかな青い空の合間に流れる空気の動きに意識を集中し続けた。


よし、今の風の呼吸のリズムはつかめた。 今は静かになっているから、次の強い風が吹き上げてきた時に合わせて走ろう。 ザワザワと、尾根の下の森の木々が揺れて、波のうねりのように僕の方に向けて風が登ってきている。  僕の髪の毛が少しふわっと揺れたかと思うと、途端に身体は風の圧力を受け始めて機体に大きな抵抗がかかった。 「行きます!」 僕は小さく声をかけると全力で走り降りた。 次の瞬間あっという間に僕は上昇気流に乗り数十メートルの空に浮かんでいた。 飛び立ってから上昇し続けて30秒ぐらいは機体の挙動に全神経を集中していたし、目の前に繰り広げられる現実の刺激の強さを味わうのに夢中だったが、ふと我に返って思わず感動の叫び声をあげた。 しばらく何度か左右に振られたが、その後機体の動きが少し安定したタイミングで後ろを振り返ると、もうはるか下に小さくなったランチャー台の上に師匠や見学していた友達が立ってこちらを見守ってくれている。 そのまま緩やかに風に乗り、何十回も頭のイメージや地図や写真で練習したシミュレーション通りに、尾根を越えて、徐々に山の斜面沿いに飛んでいく。 森の上を通過してゴルフ場を見下ろしながら町の方へ、国道を小さなプラモデルのような車たちが行き来するのを見ながら、電線が張り巡らされたアパートを越えたら着陸用の田んぼを目指す。 上空で旋回しながら、着陸に理想的な緩やかで安定した向かい風が吹いているのを確認してから100m、50m、20mと徐々に高度を下げてランディング。  地面を踏みしめ、機体を安全な位置に落ち着かせ、ハーネスを外した。 じわりじわりと感動が溢れてきた。  人生で初めて身体一つで空を飛んだ。 テイクオフから着地までわずかに10分ぐらいの冒険だった。



この、初めて空を飛んだ瞬間はものすごい感動だったのは事実だけど、その飛行感覚は、振り返ってみれば、浮遊感も風の音も圧力も、今までに何度も何度も何百回も夢の中で体験していたものとまったく同じものだったので初フライトにも関わらず、ものすごい安心感で落ち着き払っていたのが不思議だった。 とはいえ、最初は怖いもの知らずだった僕も現在までに38回の高高度フライトを経験し、最高高度は1100メートル、一回のフライトでの連続飛行時間は最高で3時間弱というように数をこなすうちに少しずつ恐ろしい体験も味わった。 乱気流に巻き込まれて、自分が体重移動をしているのとまったく逆の方向の鉄塔に吸い込まれ追突しそうになったことや、山の裏側の乱流に引き込まれて墜落しそうになったことなど。 今ではちょっと高い場所に行くと、ここはどんな風が吹いているかな、とか、あそこから飛び立てるかな、とか考えてしまう僕がいる。 だって、あの大空を鳥たちだけに独り占めさせておくなんてもったいないから。









以下写真は講師Memoの機体に設置のビデオカメラのキャプチャー画像


ランチャー台で風を待つ








飛び立った直後












鉄塔にぶつかりそうになったこともある











 









ランチャー台で仲間の機体が準備をしている







                                           


300mぐらい下の方に仲間が飛んでいる




























アパート、電柱、電線に墜落しないように










もっとも危険で、高度な技術が要求されるのが着陸だ














休耕田への着陸は許可を取ってある













機体を上に押し出しブレーキをかける「フレア」











無事に着陸できた







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